患者さんの中には歯科で「親知らずが神経に接しているから抜歯をすると麻痺が出る」と言われたと訴える患者さんがよくいます。
もちろん親知らずと神経が近いほど麻痺が出るリスクは高くなりますがそれはどの程度なのでしょう。
例えば口腔外科の癌の手術などで神経が露出することがあり愛護的にではありますがピンセットでつまんだり器具によって押したり引っ張ったりしています。
もちろん麻痺が生じる場合もありますが、それら全てで麻痺を起こしているわけではありません。
同様に当院でも埋伏智歯抜歯の際に下歯槽神経血管束(神経と血管が束になったもの。いわゆる神経と言われているもの。)が抜歯窩に露出するケースは珍しくありません(図1)。
このように下歯槽神経血管束が露出しているものは親知らずと接していると思われます。しかしほとんどのケースで麻痺は起きていません。
三浦らの研究では下顎智歯抜歯後のオトガイ神経麻痺の出現率は0.6%と報告しています1)。すなわち多くの場合、『神経に接している=麻痺』ではありません。
とは言っても下の埋伏した親知らずを抜くリスクと言えば神経麻痺と言われますが実際にはよく訓練を受けた術者が適切な処置を行えば親知らずの抜歯で神経麻痺を起こすリスクは高くはありません。
1)下顎埋伏智歯抜歯後の神経麻痺、口腔病学会雑誌,65(1):1-5,1998